古文書にふれてみよう
-はじめての古文書体験-
古文書の文字
ミミズが這(は)ったような字なんて言わないで!
これは昔の人が書いたきちんとした文字なんだよ。じょうずな字を達筆(たっぴつ)というけど、達筆すぎて読めない~っていうこともあるかな・・・

古文書には、さまざまな種類(しゅるい)の文字があったんだ。
キミたちが普段(ふだん)つかっているひらがなや漢字とは、ちょっと形が違(ちが)うよね。

なんかニョロニョロとした形をしているね。

これじゃ、読む前に、漢字なのか、ひらがななのかもわからない・・・。

文字のこと、ちょっと勉強しておこう
万葉集(まんようしゅう)。
漢字ばかりで書かれているね。この写真のカタカナのフリガナやくぎりを示す「・」はあとから書き入れたものだよ。
(万葉集巻1・2 国立公文書館デジタルアーカイブより)

最初(さいしょ)に文字のことをちょっと勉強してみよう。

そもそも日本では文字というものがなかったんだ。

1世紀(せいき)ごろ、中国から漢字で書かれたものが入ってきたと考えられているんだよ。
そしてそれをまねしたり、研究(けんきゅう)して、5世紀ごろには日本独自(どくじ)の漢字を作って、使い始めたんだ。

これを万葉仮名(まんようがな)っていうんだ。

漢字の持つもともとの意味とは関係なく、言葉の発する音をその時代に話していた言葉1文字(つまりひらがな1文字)ごとにあてはめたものなんだ。

やがて7世紀ごろの奈良時代には仏教(ぶっきょう)の教えとともにものすごく広がったんだ。

奈良時代の終わりのころに作られたといわれている「万葉集(まんようしゅう)」という今も残されている日本でもっとも古い和歌集は、万葉仮名も使った漢字ですべて書かれているんだ。

たとえば、「余能奈可波 牟奈之伎母乃等 志流等伎子 伊与余麻須万須 加奈之可利家理」は、「よのなかは むなしきものと しるときし いよよますます かなしかりけり」と読むんだって。(巻5・793より)

なかなかむずかしい!!

すべてひらがなで書かれた平安時代の古今和歌集(こきんかわしゅう)。
(古今和歌集仮名序 大倉集古館)

このころは、誰(だれ)もが文字を書けるわけではないし、読めるわけでもない。
それでも困(こま)ることがなかったんだ。

でも、記録(きろく)しておいたり、人に正しく伝えるために文字に書いた方が便利だよね。

平安時代になると、万葉仮名を簡単(かんたん)に書きやすくした文字が作られたんだ。
それがひらがなとカタカナだよ。

ひらがなは、安が「あ」、以が「い」、宇が「う」、衣が「え」、於が「お」・・・となった。
主に女の人が使っていたんだって。
女の人が漢字を使うのはどうもよくないことだったらしい。

カタカナは、これは万葉仮名の「へん」や「つくり」を簡単にしたもので、主に男の人が使ったんだって。
阿の「⻖」こざとへんが「ア」、伊の「亻」にんべんが「イ」、宇の「宀」うかんむりが「ウ」、江の「工」が「エ」、於の「方」かたへん・ほうへんが「オ」・・・になったんだ。

藩券 (個人蔵)
漢字だけ、ひらがなだけ、カタカナだけで書かれていたものが、やがて、1つの文章の中で混(ま)ざって書かれるようになっていったんだ。
この古文書は、漢字とひらがなで書かれているね。

戦国時代は、まだまだ 武士や僧(そう)などの限(かぎ)られた人だけが読み書きする時代。

江戸時代になって、ようやく普通(ふつう)の人たちが読み書きをするようになったんだ。
でも全員ではなかったんだよ。
文字を学ばない、学べない人もたくさんいたんだ。
文字って難(むずか)しいからね。なので、漢字も少しわかりやすい字に変わってきたりもした。

明治時代になるとヨーロッパやアメリカのローマ字も使われ始め、漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字と4つもの文字が使われるという世界でも珍(めずら)しい国になったんだけど、学校で学べるようになって、だんだん全国民にひろがっていったんだ。

その後、書きやすい、読みやすい文字に統一(とういつ)するようにしようとして、普通(ふつう)に使う漢字や学校で教える漢字が決められてきたんだ。

文字って、進化しているんだね。

文字は姿(すがた)かたちを変える?
室町幕府官領 官領畠山待国施行状 (個人蔵)
古文書に書かれている昔の字を今の字に置き換(か)えると、だんだん読めてくるかな?

さて、古文書に使われているのは、どんな文字かな?

時代や書いた人の身分にによっても違(ちが)う変わるところもあるから、文字の使い方によって時代や書いた人のヒントになることもあるんだ。

まず、覚(おぼ)えておきたいのは、異体字(いたいじ)だ。

同じ意味、発音の文字を表すのに別の漢字を書くことで、例えば、古文書でよく出てくる「國」。上の写真にもあるように今は「国」と書く漢字だ。
でも、ほかには「圀」という字もあるんだ。水戸黄門で有名な水戸光圀の「圀」の文字とかね。どちらも「くに」と読むんだ。

文字は姿(すがた)かたちをもっと変える?
これはひらがなの「あ」「い」の変体仮名(へんたいがな)の中の一部だよ。
これはほんの一部で、まだまだたくさんあるんだ。

異体字(いたいじ)の中でももっと変化した文字で、その代表的なものに「変体仮名(へんたいがな)」といわれる種類(しゅるい)の文字があるんだ。

さっき出てきた、漢字から作ったひらがなにも関係あるんだけど、今のひらがな1文字を漢字で書くようにしたんだ。

ところが、昔の人はこのひらがな1文字は、この漢字1文字で・・・と決めることをしなかったんだね。
たとえば、上の写真では「あ」という字だけでもここに4種類あるでしょ?
本当はもう少しあるんだけどね。
これを全部、「あ」と読むんだよ。

しかも、たとえば、「あ」を表すのに、どの漢字を使ってもよかったみたいなんだ。

そのくわしいことは、「カイドクできる? 古文書ってこうやって読む」の「キミにも分かる 漢字、かな と くずし字」のページの「変体仮名(へんたいがな)のもとは漢字」のところで見てみよう。

文字は姿(すがた)かたちをもっともっと変える?
これは将棋(しょうぎ)の駒(こま)。
この中に赤い色で字が書いてある物があるね。ひらがなの「と」と似(に)ている物と、ぐしゃぐしゃとくずしてあってよくわからないもの。
これは、どちらも「金」という字のくずし字なんだ。

もっともっと形が変わった文字があるよ。

ほら、ひらがなやカタカナが作られたところでも見たように、「あ」は「安」を、「ア」は「阿」のこざとへんをくずしたものだったね。
漢字も同じで書きやすいように続けたり、一部だけを強調して他の部分をくずしたりもしているものを、くずし字というんだ。

こういうくずし字を使っていて、さらにそれが次の字へと続いていたりするよね。
だからなおさら読みづらく感じてしまうんだ。
ただし、勝手に好きなようにくずして続けて書けばいいってもんじゃない、ある程度(ていど)ルールは決まっているんだ。
そうでないと、書いた人にも何を書いたかわからなくなってしまって、文字を書く意味がなくなってしまうからね。

あれ? キミのノートにも、キミにしか読めない「キミ専用(せんよう)くずし字」があったりするんじゃない?

そのくわしいことは、「カイドクできる? 古文書ってこうやって読む」の「キミにも分かる 漢字、かな と くずし字」のページの「変体仮名(へんたいがな)のもとは漢字」のところで見てみよう。

今も使われているよ 変体仮名
街で見かけた文字だよ。なんて書いてあるのかわかるかな?

今まで見てきたいろいろな姿(すがた)かたちの文字。
このように昔の書き方は今は使ってはいけないというものもでないんだ。
ただ、読める人が少なくなってきていることは仕方(しかた)ないことだけど。

この写真は「きそば」と書いてあるんだ。
真ん中の文字だけが漢字の変体仮名なんだ。

で、おそば屋さんの看板(かんばん)でした! ぜんぶを変体仮名で書いてあるのも見かけるよ。

まだまだ使われていて、街を歩いていると見つけることが出来るよ。
よくあるのは、「すし」「だんご」「しるこ」「うなぎ」などなど。

どんな文字で書かれているのか、探(さが)してみてよね。

これは神奈川(かながわ)県庁(けんちょう)の看板(かんばん)なんだけど、「縣廳」という見たこともないような漢字が書かれているよ。
「県庁」っていう字なんだ。

この写真はいかにも古そうな看板(かんばん)だね。
書かれている漢字は難(むずか)しい字で、今は学校では習わない漢字だ。

これは、今の漢字に変化する前の漢字で、漢字のもとの漢字なんだ。
それを正字(せいじ)というんだけど、正字はけっこう画数(かくすう)が多くて書きづらいんだよね。

でも、正式な漢字だから、古くからある公共(こうきょう)の建物(たてもの)などには、正字がよく使われているよ。

今みんなが使っている漢字の中には、正字がそのまま使われているものもあるけど、正字を簡単にしたもの「通用字体(通用字)」が多いんだ。

第2次世界大戦後、すべての国民が漢字やひらがなを正しく、書いて、読めるように決められたものが、今みんなが習っているもののもとになってるんだ。
その時に決められた漢字を新字体、それ以前のものを旧字体(きゅうじたい)(旧漢字(きゅうかんじ)というんだ。

このページの最初の方に出てきた「異体字」も、考えてみれば昔の人が正字を簡単にした、今でいう通用体みたいなものだよ。

ということで、古文書の文字を見分けるコツ、ヒケツはこれだ!
足利義教御判御教書 (個人蔵)
ちょっと見ただけでは難(むずか)しそうだけど、よく見て見て!! わかりにくい字は「当」と「旨」という字だけなんだ。あとは今も使われている文字ばかり。
意外にも見えてくるよ、古文書の中身が。

古文書の中にはキーワードになるものが結構(けっこう)あるんだ。
まず、それを見つけること。

学校で習っていなくても、どんな漢字か読めなくても、キーワードとなる文字を見つければ、どんな目的(もくてき)の文書なのかがわかるんだよ。

その文字が、異体字でも、変異仮名でも、くずし字でも、それぞれパターンがあるんだ。
記号のようなものだね。
そのいくつかのパターンを覚(おぼ)えてしまうと見つけやすいんだよ。

街などで見るものにもヒントがあったよね。
そういうものを見つけてちょっと調べたり、想像(そうぞう)したりすることから始めてもいいね。
たとえば、「駅」を「驛」と書いてある古い駅の看板や、「大学」を「大學」、「芸術」を「藝術」、「写真」を「寫眞」・・・まだまだありそうだ。

古文書の読み方については、「カイドクできる? 古文書ってこうやって読む」でね!

このページのまとめ

このページで学んだことのポイントはこれだ!
整理しておくよ。

〇古文書に使われている文字には、何種類かある。

〇古文書の文字には、いくつかのパターンがある。

〇いろいろな種類、形のパターンのもとになる文字は、すべて漢字。

〇現代(げんだい)の日常(にちじょう)でも使われている文字も、
古文書で使われている。

古文書の文字、ちょっと、こわくなくなったよ。

うん、いくつかのパターンを覚えればいいのね。

いくつかの文字のパターンが混ざっているからよけいに難(むずか)しく感じるんだよね。
でもさ、今、みんなが使ってる文字も、3つのパターンの文字が使われているんだけど、あまり気にしないで使ってるんじゃない?
ほら、ひらがなでしょ、カタカタでしょ、漢字でしょ。。。
あ~っ、もっとあった!数字もあるね。それに英語のアルファベットやローマ字もも!!

それとね、漢字を使っている国って中国、台湾、韓国などがあるんだけど、音読みと訓(くん)読みがあるのは日本だけなんだよ。

こんなに複数の文字パターンを普通(ふつう)に使っている国ってめずらしいんだって。
だから外国の人から見たら、ニホンゴハ トテモ ムズカシイヨ~~~だって。